当院には非常に多くの四十肩・五十肩の患者さんが来院されます。近隣の先生方から紹介いただくケースや、肩が痛くて(動かなくて)生活に支障をきたして、ネットや知人を通じて直接来られる方など様々です。
当院では、五十肩の保存療法の1つとして「サイレントマニュピレーション(肩関節授動術)」をおこなっており、痛み・可動域共に良い成績をあげています。
毎日、授動術をする患者さんとお話ししていると、皆さん同じことを話されます。
めちゃくちゃここに来るの不安でした
不安でインターネットで調べまくりました
注射が苦手なので、とても心配です
こう仰るのは当たり前なんですが、診察している僕からすると少しでも緊張せずに受けてもらいたいなと思うものです。
そこで、もちろん来院される患者さんの不安を全部取り除くのは難しいかと思われますが、少しでも減らせるように、
- どんな方が適応となるか?どんな診察をするか?
- 治療から帰られるまで
- 翌日から数ヵ月後の流れ
- 合併症について
- 当院での授動術の成績について
について書きたいと思います。
※もちろん授動術をした全ての方が同じ流れになるとは限りませんので、その辺はどうかご容赦ください
どんな方が適応となるか?どんな診察をするか?
適応となる患者さんは、五十肩の中でも拘縮が進んでいる患者さんです。五十肩は病期が一般的に3つ“炎症期・拘縮期・回復期”に分かれています。
何かをきっかけに肩に炎症が起こると、山火事のように肩全体に炎症が波及します。炎症(火事)が終わると徐々に拘縮期に移行していきます。そこから半年くらい経つと回復期となり徐々に痛みが取れ、動くようになっていきます。
この3つのうち、拘縮期の患者さんで可動域制限や痛みが強く、リハビリに支障をきたしている患者さんが適応となります。
診察は、まず初めに診察前に画像(レントゲン・MRIなど)がある方はそれをチェックし、その後、診察室に入っていただき肩がどれくらい動くかを見ていきます。その他、関節の包みの硬さや余裕がどれくらいあるかをチェックします。
それが終わると、超音波検査をします。超音波をする理由としては、痛みや可動域制限をおこしている他の理由がないかを調べます。(痛くないです笑)
それらが終わり、問題ないことを確認し、サイレントマニュピレーションの説明に入ります。
治療から帰られるまで
まず、横向きに寝ていただき、肩関節の中(背中から)と首の神経にブロック注射をおこないます。
ここが皆さんが気になるところだと思うのですが、肩関節には抗炎症作用のある薬を注入し、首や手にいく神経に局所麻酔薬を注射します。2カ所とも医療現場で使われてる中では非常に細い針を使用します。
しかし、肩関節注射は狭くなっている包みの中に薬液を注入するので、重だるい痛みを訴える方が多いです。拘縮が強いほど痛みを伴うことが多いですが、実際にやってみると案外皆さんそこまで痛がるしぐさは見られません。
次に、首の少し後ろから神経に注射をします。神経に注射というと怖いイメージがあるかと思いますが、直接神経に針をさして注射をするのではありません。
神経の周りに薬をいれて麻酔をしていくので、少し痛みがあったり、手の方にまで薬が入る感覚はあると思いますが、強烈な痛みが出ることはありません。
注射が終わると10-15分程度麻酔が効いてくるのを待ちます。
時間が経つと、指は動くけれど肩から下が動かせなくなってきます。その状態になったら麻酔完了の合図です。ゆっくり、優しく手を動かしながら肩の拘縮を解除していきます。
拘縮が取れる際に「ミシミシ・メリメリ」と音がします。怖い音に聞こえますが、これはしっかり拘縮が取れている成功の音です。10分弱ほど、優しく肩を動かし拘縮を全て解いた後、終了となります。麻酔が4-5時間効きますので、手が動かせないので三角巾をつけて帰っていただきます。
注:4-5時間経つと必ず手は動くようになりますのでご安心ください。そのまま動かなくなるなんてことはありません。
翌日から数ヵ月後の流れ
授動術後は、リハビリを行うことが超重要ポイントになります!
翌日来られた際に、すぐに整形外科の施設にリハビリに行っていただくよう促し、紹介状も作成します。
当院には、原則的には翌日・1週間後・1ヵ月後・2ヵ月後に来院していただいてます。
体は授動術前の状態が普通だと思っているため、拘縮を解いたことによる炎症が起きます。
そのため、今までになかった痛みがでたりすることがたまにありますが、なんの問題もありません。来院された際には、炎症や痛みを取る注射、今まで使えてなかった肩の筋力を改善させる治療などをおこなっていきます。
来院された際は注射をすることで痛みや動きが改善しますので、僕の気持ちとしてはやはり打ってあげたくなります。しかし、注射がどうしても苦手な方は痛み止めのお薬を飲みながら、回復を一緒に待ちますのでご安心ください!
合併症について
効果が絶大な反面、針を刺したり区域麻酔をおこないますので、どんだけ僕たちが神経をすり減らしておこなっても合併症は少なからず存在します。(これは薬の副作用と同じです)それらについて書かせていただきます。
比較的よくおこるのは、内出血です。肩の周りに赤いあざや紫色の内出血が起こったりします。時間が経つと消えていきます。
他には麻酔をした後、少し息がしんどくなったり、気持ち悪くなったりする方が約3-4%存在します。処置室で数分程度休憩すると回復していきます。
その他重大な合併症としては、骨折・感染など怖いものも存在します。しかし、幸い当院ではこれまでに4000例おこなっていますが、今のところ起こっておりません。
以上が大まかなサイレントマニュピレーションの経過になります。
当院での授動術の成績について
当院での2013年から2017年のサイレントマニュピレーションの成績を論文で発表しております。
1665人の肩に対して、1ヵ月後・2ヵ月後・3ヵ月後でどれくらい肩があがるようになったかを調査したものです。
Flexionとは手を前から上に挙げる動作、Abductionとは外から手を上に挙げる動作、External rotationとは、脇をしめて手を外側に回旋させる動作です。下図でみていただいてわかる通り、大きく改善しているのがわかります。大きな有害事象や予期せぬ合併症は起こりませんでした。
リハビリだけでは困難であった人を対象にしているので、なかなかの改善具合かと思われます。どうでしょうか。。怖いながらもやってみる価値があるかもとおもってもらえたでしょうか?
最後に
少し長くなってしまいましたが、いかがだったでしょうか?少しは想像が膨らんだでしょうか?
自分が五十肩になっても・・家族や親族・友人がなっても間違いなくお勧めする治療です。怖さもあると思いますが、少し先の未来を見据えて来院してください♪
最後に余談ですが、お笑い芸人である「かまいたちの山内さん」がサイレントマニュピレーションを受けられたようで面白く話してくれてます。リンクを張っておきます。
話の内容は、いくつか間違いがありますし、山内さんの場合、腱が切れていたため本来は適応にならないことが多いため少し「?」な部分がありましたが、非常に面白く見れます♪時間があれば見てみてください。他には江戸川病院の先生がサイレントマニュピレーションの実際の動画をあげてくださっています。こちらも参考にしてみてください。
コメント