「よし、今日も頑張るぞ」勢いよく起き上がった時や、これ重たいけどあっちまで運ぶぞ!よいしょ・・ ズキッ! 腰から足にかけて電気が走るような痛みが出現。しびれてるし動けない・・仕事できないし痛すぎて動けない。誰かたすけて~。
第2回目は、「腰椎椎間板ヘルニア」にしました。この病気も、前回の帯状疱疹と同じで、私たちペインクリニシャンが出くわすことの多い病気です。
なぜなら、腰椎椎間板ヘルニアの患者さんの多くが手術適応とならないからです。
椎間板ヘルニアは、腰も首も、痛みをコントロールしながら保存療法で完治してしまうことがほとんどです(文献では70%と言われています)。
今回もわかりやすいように自作のイラストを作りましたが、出来栄えは悪めです!すみません。
どんな病気?原因は?
下図1のような骨の模型をみるとわかりやすいかと思います。
腰椎(腰の背骨)は5つあります。それら腰椎の間には椎間板というものがあります。
図2のように椎間板を輪切りにしてみると、2層構造になっており、外側はコラーゲンを含んだ硬い組織の繊維輪というものがあります。中心部は、ゼラチン状になった髄核(ずいかく)というものがあります。このゼラチンの髄核が外に飛び出したものを「腰椎椎間板ヘルニア」と呼びます。飛び出す方向は様々ですが、問題となるのは神経がある後ろ側に飛び出したものです。
図1
図2
元々は壁のように固い繊維輪に囲まれています。しかし、年齢とともに椎間板が年老いていき柔軟性がなくなっていくのです。そうなると、運動や仕事のちょっとしたことがきっかけで繊維輪に亀裂が入り、髄核が外へと飛び出していくわけです。
どんな人に多いか?
よく聞く病気ですが、何%の人に起こっているか?などはまだ信頼できる報告はありません。20~30歳が一番多く、性別は男性が女性の2~3倍多いといわれています。
ヘルニアが起きる部位としては、5個ある腰椎のうちの下の方の椎間板で起きやすいといわれています。なお、遺伝的素因は今のところ詳細は不明です。
症状は?
初期の症状としては、腰痛が多く、その後悪化するとお尻から足にかけての痛みや痺れ・知覚障害(感覚が鈍くなる)・足の筋力低下等があります。
悪化が進むと、動けないほど筋力が低下したり、おしっこがでにくいなどの膀胱直腸障害というものが起こることもあります。
症状は、基本的には片方にしか症状は出ませんが、ヘルニアが圧迫する神経によっては両方の足にも症状がでることも稀ではありません
診断は?
上記に書いた症状が出現した場合、身体検査をおこないます。
1つ有名なのを紹介しますと、椎間板ヘルニアを疑う場合、身体検査として有名な「straight leg raising」というテストがあります。
図のようにただ足を伸ばして上にあげるだけなのですが、これにより椎間板をわざと飛び出させて痛みが出現するかをみます。
またレントゲンやMRIなどの画像検査も有用です。
特にMRI(下図)は、ヘルニアの飛び出かた、神経がある場所、その他背骨の構造などを具体的に表示するができます。したがって、原因を特定したり、治療の選択肢を増やしたりできる非常に重要な検査です。
これらを総合的に見ながら腰椎椎間板ヘルニアの診断をしていきます。
治療は?
大きく保存療法と手術療法の2つに分かれます。
冒頭に書いたように腰椎椎間板ヘルニアの大半は保存療法でヘルニアがひっこんでしまい完治することが可能な病気です。なので痛みのコントロールをしてあげて治っていくのを待つのが基本的な戦略といえます。
しかし、中には絶対に手術した方がいいという絶対適応と経過をみて手術をすすめる相対的適応というものもあります。
この表に示した相対的適応とするポイントが、私は重要だと考えています。保存療法は時として時間がかかることがあります。神経ブロックやお薬の反応が悪く、生活・仕事に支障をきたす場合は、よく患者さんと話し合い手術を検討していきます。
手術も今は低侵襲で可能な手術方法がでてきており、リスクも減っています。1週間程度で退院できますし、私も保存療法の効果が乏しいと判断した場合は、すぐに当院の整形外科の先生に紹介しています。
もちろん、全身麻酔を受けることになりますし手術・手術後の合併症もあるので、全員にすすめることはありません。
神経ブロックはどんなもの?
よくおこなわれるのは、硬膜外ブロックや神経根ブロックというものです。
神経と椎間板が接触して炎症を起こし、痛みの原因となっている部位に抗炎症薬と鎮痛薬を注入します。痛みを取り、炎症を止めながら、飛び出た椎間板を元に戻すように促していきます。
下図のように、数回、神経ブロックを行うと、保存療法に反応を示す患者さんは、顕著に改善します。飲み薬とは違い、痛い・痛くないを繰り返しながら徐々に痛みを減らしていきます。
内服薬はどんなもの?
腰椎椎間板ヘルニアの薬に効果のある薬は数種類しかありません。
- ロキソニン等の非ステロイドの消炎鎮痛薬
- リリカ・タリージェ(商品名)といった神経の痛みに限定して効果がある薬
- 抗うつ薬
- 漢方薬
上のようなものが主です。以前の記事のように痛みの性状を非常に細かく分類したり、薬の特徴をうまく使いながら処方していきます。
保存治療と手術治療は結局どっちがいいのか?再発率も含めて
様々な文献が存在しますが、今わかっていることは、臨床的な症状は手術治療の方が長期的にも良好な成績といわれていますが、この2つは年を重ねるごとに差は縮まるといわれています。
保存療法では、重度の症状が出ている患者さんの場合、3ヵ月以内に9%が、2年以内に45%が手術に移行したという海外のデータもあります。その一方で、手術の後の再発率は、術後5年後で4~15%といわれており、年を重ねるごとに増加するという報告もあります。 一概にどちらがいいというのはやはり言うことができないなと感じています。
最後に
椎間板ヘルニアのことについてわかりやすいように書いてみました。
診断は容易ですが、治療に関してはペインクリニシャンの腕の見せ所です。というのは保存的治療を高いレベルで実行することも勿論ですが、患者さんのバックグラウンドをみながら優秀な整形外科の先生に紹介することも役目と考えています。
痛みを共有し、一緒に治療していくことを大切にしています。
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